華氏911 (4)


2014/3/7  ”名作映画シリーズ ”   
ーかくして2003年5月1日、ブッシュ大統領は、一方的にイラク戦争の「終結宣言」を行った。しかしその後、バグダッド市内では米兵に対するテロが相次ぎ、米兵の死者が続出する。テレビニュースが伝える。 
 「本日、162人の米兵が敵の攻撃で死亡しました」「244人の米兵が死亡しー」「384人の米兵が戦死しました」「484人の米軍兵士が死亡、これで合計600人の米兵が戦死」「ベトナム戦争以来、最多の死者です」   
 一先ず戦闘終結の宣言はしたものの、バグダッドのテロのぬかるみ、いつか来たベトナムの道に踏み込んだブッシュ大統領、テレビ演説でまたも大見得を切る。   
 「イラクでテロだと?上等だ。いつでもかかって来い!」   
 それに対して、イラク戦争の真実を伝えるべく、ムーアは敢えてリアルで生々しい映像を引用して示す。元傭兵の米セキュリテイ会社要員が乗った車が群衆によって焼かれ、黒焦げとなったその死体を引き出し、引き摺り、棒で叩き、橋に吊るすあの衝撃の映像シーン。   
 ブッシュの終結宣言にもかかわらず、「戦火はイラク全土へと拡大、第二のベトナムです」とcnnのキャスターが速報で伝える。また当時のイラクの戦場に入った日本人ジャーナリストたちがムジャヒデンの人質となり、自衛隊に退去の要求を行うニュース映像も流される。   
 かくして国防総省は、米兵の増員派遣を発表。現地の米兵たちは、長期化する戦闘に米政府批判を口にするようになる。  
 「こんなに任務が長引くとは思わなかった」「政府は甘く考えていた。他国を征服することは、思った以上に難しい」「ラムズフェルドはもう辞任してくれ!」   
 一方、戦禍の拡大で予期しなかった兵士の増員を迫られた米政府。軍の募集官は、全米の町から町を駆け回った。彼らは、ムーアの故郷、ミシガン州フリントの町にもやって来た。   
 「2004年1月現在、フリントの実質失業率は50パーセント以上です」と市の職業斡旋担当秘書のライラ・リップスコムが、取材に答えて語る。   
 「高い失業率、大学に入る経済的余裕もないフリントの若者にとって、軍隊に入るメリットは多いわ」  
 「陸軍の募集官がハイスクールにやって来て、学校の食堂でリクルートしてるよ」と職業訓練校に通うフリントの若者たちが、ムーアに向かって言う。車に乗って町を走る二人の募集官の姿をカメラが追う。彼らは低所得者の若者、黒人たちが集まる場所を巡回し、車を降りて見込みのある若者に高給と高待遇を提示し、リクルートして歩く。   
 イラクのバグダッドでは、クリスマス・イブの夜、市内をパトロールする米軍兵士たちとチームの隊長が、取材に答える。   
 「休暇に入ると、特別な気持ちになる。私には部下の命と安全を守る義務がある」「バグダッド市民が武器を持つ権利はある。ただしAK47一丁までだ」「よし、パトロールに出掛けるぞ!」とM4A1カービン銃を手に完全装備で、夜のバグダッド市街へと出発する米軍兵士のチーム。   
 今度は、フリントのライラの自宅で家族も交え、取材を試みるムーア監督。
 「アメリカを誇りに思う?」とムーアが問う。「もちろん」とライラが即座に答える。「うちは叔父、叔母、従兄弟、父、兄弟、息子、娘も戦場に行ったわ。アメリカの屋台骨の一部だと思うわ」   
 やがて、イラク戦争のもう一つのテーマである反戦運動、アメリカ国民による反戦デモについて、ライラとムーアは話し始める。   
 シーンは、再びバグダッド市内の米軍兵士たちの映像に変わる。テロが頻発し、米兵の死者が増え続け、戦争は長期化し、厭戦気分が若い兵士の間に広がる。米兵の一人が、その真情を吐露する。   
 「戦場では、自らの人としての理性を殺さなければ、敵を殺せない」   
 ブッシュ大統領は口では勇ましいことを言うが、その実、イラクの現場の兵士、戦死した米兵、退役した軍人とその家族には冷たく、彼らに対する給与、年金、医療費を次々とカットする実態をムーアは暴く。そして片腕、両腕、両脚を失った戦傷した米軍兵士たちをムーア自身が取材する。   
 「ある夜、2階で寝ていたら、テレビのニュースがあって、『昨夜、バグダッドでヘリが墜落した』って言ってたわ」「それで、まさかと思い、『神さま、助けて下さい』とお願いしたけど、その後軍から電話があって」 
 再び家の居間のソファーでライラが語る。「『ライラ・リップスコムさんですか』と聞かれ、『はい』と答えたわ」「『ペダーソン軍曹のお母さんですか』とまた聞かれ、思わず受話器を落としたわ」「『奥さん、米軍と国防長官は慎んでここにお知らせします』って。それだけ」   
 インタビュー後、戦死した息子の手紙をムーアの前で読み上げる母親のライラ。最後の手紙を読み終え、流れる涙を手で拭いながら、ライラが訴える。   
 「息子はもう戻って来ない・・」   
 イラク戦争後、早くも戦後イラク復興に向け皮算用を弾く米国の大企業と政商の姿をカメラは追う。   
 「戦争ビジネスは、我々にとって旨味がある」「今、新しいビジネス・チャンスがあるのは、イラクだけだ」「世界第2位の埋蔵量を誇る石油がなければ、ここまでイラクに肩入れしてないさ」   
 軍産複合体の大企業、その下請けの中小企業、そしてイラク復興商工会議所の幹部ビジネスマンらが嘯く。  
 ある日、ワシントン取材中のムーアにライラから連絡が入る。出張でワシントンにやって来た彼女は、是非ホワイトハウスを訪れたいと言う。二人はホワイトハウスへと向かう。広場では、アラブ系の中年女がテントを張って、反戦活動のビラを配っている。立ち止まるライラ。   
 「どうせテレビ向けの演出でしょ」と観光客の若い女が非難する。「私の息子が戦死したのは、紛れもない事実よ」とライラがやり返す。  
 やがてライラは一人、ホワイトハウスの方向へ歩き始め、近付き、そのフェンスの前に立つ。そして、白亜の建物の主に向かって訴える。   
 「私は今、息子を失ってやっと知ったわ。愛する者を失った人の哀しみと嘆きを」「息子を返して!あの子を返して!」   
 嗚咽を抑えながら、ライラは尚も続ける。  
 「私の胸は張り裂けそうだわ。何て苦しいの」「でも私はやっと、その場所を見つけた。私のこの怒り、私の魂の痛みをぶつける場所を」   
 そしてその白亜の建物の屋上には、ライフル銃を構えた数名の狙撃兵が24時間中、徘徊している。  
 ラスト・シーンは、ブッシュ大統領の演説にムーアによるジョージ・オーウェルの箴言を重ね合わせる場面で終わる。   
 「戦争の大義名分が問題なのではない。勝利など不可能だ。戦争の目的とは勝利そのものではなく、その継続にあるのだから」   
 そして、ブッシュ大統領が演説する。「テキサスの諺にある。『私を騙したなら、恥を知れ』と。私は二度と騙されない」そのブッシュにムーアが言い返す。「ブッシュよ、僕も騙されない!」   
 最後に、マイケル・ムーア監督のエンデイング・クレジットが入る。”イラク戦争で死んだフリントの兵士たちと2973人の9・11テロの犠牲者、そしてアフガンとイラクで死んだ人々にこの映画を捧げる”合掌  

          
         (了)   

ー写真カットは、ミシガン州フリントからワシントンにやって来たライラが、終にホワイトハウスの前に立つシーン。



          
































 









   

















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二階堂 新

Author:二階堂 新
 1955年生まれ、京都在住。フリーライター、フリーカメラマン、作家、企画主催者。皆さん、ヨ・ロ・シ・ク!

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