黒い雨  (特別編)

未公開ラストシーン:「矢須子の四国巡り」   
 カラー映像のファースト・シーンは、それから10数年後、数々の石仏を前に悠一の妻となった矢須子が、義理
の母である岡崎屋のタツと話すその姿から始まる。   
 叔父夫婦、村の知人たちも次々と失い、自らも原爆症に苦しみながら生き続けた矢須子。夫の悠一の前で、死者
たちのためにも、唯一人で四国八十八ヶ所巡礼の旅に出ると主張する。そして昭和40年秋、40歳になった矢須
子は、決死の覚悟で四国巡りの旅に出発する。  
 旅の途中、あの顔にケロイドのある中年男、今や老遍路になった老人(常田富士男)と知り合い、二人で家々を
托鉢しながら四国巡礼の旅を続ける。   
 この未公開ラストシーンで、今村昌平監督は、「矢須子に救いはあるか」というテーマを問いかける。それはまた、ガンと闘った女優、田中好子の問いかけでもある。老遍路とある寺に入り、階段を上る矢須子。するとどこからともなく、聞き慣れたノミと金槌の音がする。老人を先に行かせ、そっとその小屋に近付くと、そこに夫悠一
(石田佳祐)の姿があった。   
 「石屋さん、昼飯じゃー」と出前の中年女が入って来ると、小屋の影に身を寄せる矢須子。  
 「待ち人、まだ来なさらんかの」  
 その手を休めず、悠一は石仏にノミを打ち続ける。矢須子は、頬にあつい涙を溢れさせ、その背中に両手を合わせると、静かに立ち去る。泣きながら境内を駆け抜け、老人遍路の元へ。その老人も、お堂の前で倒れていた。 
 「わしは、あの時女房、子供を見殺しにした・・・」老遍路は、その言葉を最後に行き倒れた。   
 老遍路を亡くし、草鞋も擦り切れ、足は血まみれになり、ボロボロになっても尚、遍路の旅を続ける矢須子。
 感動のラストシーンは、山中の遍路道。ふと矢須子が脇道に目をやると、数体の石仏があり、それが、叔父の重松、叔母のシゲ子、村の人々、そして老遍路の姿になって彼女を呼ぶ。遍路装束の矢須子は、その石仏の中にしず
しずと入って行き、そこで満身のほほえみを見せるのであった。   
 私は、この全4回の映画評を4月21日乳がんで亡くなった女優、田中好子(本名・小達好子)と広島、長崎の
原爆で死亡した28万人の死者のその魂に捧げます。合掌。黙禱。


      
 


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二階堂 新

Author:二階堂 新
 1955年生まれ、京都在住。フリーライター、フリーカメラマン、作家、企画主催者。皆さん、ヨ・ロ・シ・ク!

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